15世紀に入ると、ミサ曲のすべての通常文(キリエ、グローリアなど)を通して作曲することが盛んに行われるようになり、それに伴って、作曲家は全曲の統一感が得られるように工夫するようになりました。それには、各章に共通した旋律型や冒頭動機をつけるものと、各章に同じ定旋律(カントゥス・フィルムス)を用いる方法がありました。定旋律とは対位法作品の基礎となる旋律のことで、それに他の声部の対旋律を付け加えるのです。このようにして作曲されたミサ曲を、循環ミサ曲または、定旋律ミサ曲といいます。また、ミサ曲は、たいていの場合、定旋律に使われる原曲の歌詞で呼ばれることが多いのです。
デュファイのミサ曲《もし私の顔が青いなら》(ス・ラ・ファス・エ・パル)は、自作の同名のバラード(3声)のテノール声部(3声の真ん中の声部。ただしくはテーノルと発音します)の旋律を用いた定旋律ミサ曲です。原曲はフランス語で書かれた世俗歌曲で、「もし私の顔が青いなら、それは恋をしているから。本当です。とても苦しいので海に溺れてしまいたいほどです。…あの人なしに生きられないなら、どんな喜びもありません」と歌っています。ミサ曲では旋律のみが、定旋律として下から2つ目のテノール声部で、もとの音価が長く引き伸ばされて歌われます。
▼シャンソン《もしも私の顔が青いなら》
▼ミサ《もしも私の顔が青いなら》