校長の研究室 
 > 作曲理論研究1「フーガの書法」

西洋の作曲理論

西洋音楽の作曲理論と言えば、和声法と対位法が二大根幹である。

対位法の音楽は中世の教会における音楽に始まり、15世紀頃の定旋律ミサの様式や、リチェルカーレなどを経て、単一主題によるフーガへと発展、18世紀に J.S.バッハにより高度に発展した。フーガは J.S.バッハをはじめ、多くの作曲家によって書かれており、また現代でも書き続けられている。

和声法は17世紀頃から19世紀頃の書法を体系的に学ぶことができる技法である。1722年にラモーが『和声論 Traité de l'harmonie 』を著述したのは有名で、その後も多数の著書がある。日本では島岡譲氏を中心として著述された『和声 理論と実習』(音楽之友社/1964年)が広く普及し、今日では『和声の祭典』(洗足オンライン/2015年)により、和声法をネットで修得できるまでに発展した。

フーガは一般的には対位法の音楽に分類されるが、学習上では厳格対位法と和声法を総合的に修得したうえで、さらなる高みを極めるものであると感じる。パリ国立高等音楽院では、和声法、対位法、フーガの3つを作曲理論の柱としていたようである。

フーガにはロンド形式やソナタ形式のように決まった形はないが、フランスにおいて学習のためのフーガの書式(以降、学習フーガ)が考案された。これにより、フーガに用いられる様々な書法(移調、移旋、変応、追迫、拡大、縮小など)を効率よく学ぶことができる。

学習フーガの書籍について

池内友次郎氏(1906-1991)が、1927年から1937年にわたりフランスへ留学してその書式を修得、そして著書『学習追走曲』(池内友次郎著/音楽之友社/1977年発刊)によって日本に広まることとなった。フーガは東京藝術大学の入試課題となり、長きにわたって作曲家にとっての必須の学問となった。この書籍は絶版になって久しいが、2013年まで東京藝術大学の入試に必須であったことと、この書籍をもとに教える教師が多いことで、現在はこの書籍の考え方で学習した人が多いと思われる。変応の方法が詳しく記されている。

『フーガの実習』(島岡譲著)は一部の書店でしか扱っておらず手に入りにくい。「併行調」など、用語(漢字)がやや古く、突如移動ド表記が混ざっており、現代においては困惑することもあるだろう。喜遊部などの用語は『学習追走曲』に近いところがある。21世紀の今日においては手作り感満載の体裁だが、価格は安く内容は充実している。

以上のようにフーガを学習するための書籍は手に入りづらかったが、2016年に『フーガ書法 パリ音楽院の方式による』(山口博史著/音楽之友社)が出版された。この書籍は『フーガの実習』に近いところもある。解説は上記2冊より簡潔であり、やはり新しいゆえに読みやすくレイアウトされている。「喜遊部」を「間奏」とするなど、今の時代で分かりやすい名称に変更する試みを行っている。

これから学習するならば、手に入りやすい『フーガ書法』で学ぶのが良いと思うが、過去に学習した人と用語の意味が異なったり、通じない恐れはある。本稿がその橋渡しとなれば幸いである。なお、いずれの書籍で学習しても、結果として目標とする音楽に違いはない。

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