17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパでは、フランスやイギリスが王権を強化することで中央集権国家に移行し、オーストリーやドイツを含む神聖ローマ帝国やスペインなどの大国が経済や文化をリードするようになります。その一方で欧州諸国をローマ・カトリックとプロテスタントの2派に分けた30年戦争(1618 年~1648年)が起こりました。
ルネサンス後期にそれまでの従来の対位法音楽ではない、積極的な感情表現を行なうマドリガーレが登場しましたが、さらに大きな変化は1600年頃のイタリアのフィレンツェに現れました。フィレンツェのカメラータ(仲間の意味)と呼ばれる人文主義者たちが古代ギリシャの復興を目指して、オペラを開発します。こうして現存する最古のオペラ、カッチーニとペーリ共作のオペラ《エウリディーチェ》などが生まれました。このような初期のオペラではすべてのセリフは「歌うように語られ」(レチタール・カンタンドといいます)、それを楽器で伴奏し、合唱や器楽の間奏曲が奏でられます。
器楽の伴奏を伴うこのような書法を、モノディー(モノディア)様式といいます。直訳すれば単旋律様式というほどの意味ですが、一つの旋律を和声で伴奏するスタイルです。その方がそれまでのルネサンス期のポリフォニーよりもずっと歌詞の言葉の情念(アフェット)に沿った表現が可能になるからです。そこで生まれたのが「通奏低音」という伴奏法です。イタリア語でバッソ・コンティヌオ(basso continuo)といいます。因みに各国語の表記は以下の通りです。thorough bass(英語),basse continue(仏語)Generalbass(独語)。ほぼバロック期(1600年頃から18世紀中頃まで)を通して用いられたので、バロック期は通奏低音の時代とも呼ばれています。
通奏低音は低音の旋律とその上か下に記された数字に基づいて、演奏家が即興的に和声の彩りを添えて演奏するもので、チェンバロやオルガンなどの鍵盤楽器の場合、基本的に演奏家は左手で 低音の旋律を弾き、右手はそれにふさわしい和声をつけて演奏します。例えば、数字が何も付いていない時には和音の基本形、すなわち3度と5度の音をつけて演奏しますが、数字の「6」がある場合には低音上の3度と6度の音を加え、「4」と「6」が一緒に記されていれば、第2転回形の和音を弾くことを意味しますが、その和音をどう演奏するかは演奏家に任されていました。
▼通奏低音の一例
▼上記の通奏低音の演奏の実例
チェンバロ演奏:岡田龍之介
▼上演奏の譜面
フィレンツェのカメラータのメンバーのジュリオ・カッチーニは、ペーリとともに現存する最古のオペラ《エウリディーチェ》(1600年)の作曲者として知られますが、同時に最古のモノディー様式による歌曲を書いています。
《麗しのアマリリ》は1600年にカッチーニが出版した《新しい音楽》という歌曲集の中の一曲。これは19世紀のイタリアの作曲家パリゾッティが編集した『イタリア古典歌曲集』に収められていることから、今日でもよく歌われていますが、実際にはモノディー様式の音楽です。歌詞の大意は以下の通り。私の麗しいアマリリ、私の心の甘い希望の人よ、僕の愛を信じてください、もしも不安になったら私の胸を開いてみて、そうすれば心に「アマリリは私の愛」という言葉が書かれていることが分かるでしょう。