ベートーヴェンが立派な9曲の傑作交響曲を残したことは、後輩の作曲家たちにとって大変なプレッシャーとなりました。
新しい交響曲を発表するからには、ベートーヴェンを超えるとまでいかなくとも、せめて肩を並べてもおかしくない曲にしなければならなくなったからです。ロマン派のドイツの作曲家、J.ブラームス(1833-1897)などは、あまりのプレッシャーのためなかなか筆が進まず、最初の交響曲である第1番を完成させるまで21年もかかってしまいました。
ブラームスは64年の生涯という、ベートーヴェンよりも7つも長生きしたにもかかわらず、結局第1番に時間をかけすぎたため、4曲の交響曲を残すにとどまったのでした。
そのほか、ベートーヴェン以後の著名な作曲家が生涯に作曲した交響曲数は、次の通りです。
F.シューベルト(1797-1828/オーストリア)は 8曲、ただしうち第7番は「未完成」。
F.メンデルスゾーン(1809-1847/ドイツ)は 5曲。
R.シューマン(1810-1850/ドイツ)は 4曲。
A.ブルックナー(1824-1896/オーストリア)は 9曲、ただしうち第9番は未完。
P.I.チャイコフスキー(1840-1893/ロシア)は 6曲。
A.ドヴォルザーク(1841-1904/チェコ)は 9曲。
J.シベリウス(1865-1957/フィンランド)は 7曲。
シベリウスは第7番を59歳の年に完成後、第8番の作曲を計画しながらも、なかなか具体的な形にならず30年以上が過ぎてしまい、91歳で亡くなりました。
以上どうでしょう、誰も生涯に9作より多く交響曲を書いた作曲家はいませんよね。
ここまでくるともはや「ジンクス」といってもいいのかもしれません。
いいや、ジンクスに違いない、作曲家が一生に書ける交響曲数は「9」なのだ、第9番を書き終えたあとには確実に「死」が待っているのだ、と、かたくなに信じ切った作曲家がいます。
その作曲家こそ、今回の講座の主人公である後期ロマン派でオーストリアの作曲家、グスタフ・マーラー(Gustav Mahler/1860-1911)です。
マーラーは、ベートーヴェンによってすっかり大ゲサな音楽になってしまった交響曲を、これ以上はムリというレヴェルにまでさらに巨大化させ、とてつもないスケールの交響曲を次々と作曲し、生前は指揮者としても活躍しました。
さあ、そのマーラー、はたして生涯に何作の交響曲を作曲したのでしょうか?