総合音楽講座 > 第13回 作曲家が楽譜に書かなかったこと > P3

「売り言葉に買い言葉」と「なんちゃって」

ここからはさらに空気が不穏になっていきます。いくつも指摘できることがありますので、実際に楽譜を一緒に見てまいりましょう。まず女性が問いかけます。今までは必ず4小節のメロディを朗々と歌っていたのが、たった1小節で男性に遮られます。そしてやはり男性も1小節の短いパッセージを返します。「売り言葉に買い言葉」を連想させますね。そして憂いに満ちた女性の嘆き節とも恨み節ともとれるメロディが2小節。

そして男性の主題が語気を荒げてフォルテで襲い掛かります。

ここで重要なのは最後の和音がⅥで終わっていることです。いわゆる偽終止と呼ばれているもので、意外性を表現するときによく作曲家が使うのですが、ここをもしⅠの和音で終わってしまったらそれこそTHE ENDです。しかしここで「なんちゃって」をすることでまだこの男女の仲に一縷の望みを残すことになるのです。