中世はキリスト教の神学が社会や文化に大きな影響を与えていました。そのためそれまで書物はラテン語で書かれるものでしたが、14世紀に入ってペトラルカの『カンツォニーレ』、ボッカッチョの『デカメロン』、ダンテの『神曲』などイタリア語やフランス語など世俗の言葉による文学作品が登場します。同時にイタリアやフランスで古代ギリシャやローマの文化を復興しようという動きが起こります。それは1453年にオスマン帝国によって陥落した東ローマ帝国の帝都コンスタンティノープルからイタリアに逃れてきた神学者たちの影響もあってますます盛んになります。とりわけイタリアのフィレンツェではメディチ家の庇護のもと古代ギリシャやローマの古典の研究が盛んに行われ、それは建築や美術、文学、哲学から政治などあらゆるジャンルに大きな影響を与えました。このような思潮を人文主義(humanism)といい、ルネサンス文化の大きな特色です。
またグーテンベルクが1445年頃に金属活字と印刷機による新しい印刷技術を開発し、出版文化が大きく開花します。これは20世紀末のコンピュータやインターネットの普及に匹敵するほどの大きな出来事でした。因みに楽譜の出版は1530年頃から盛んになりました。
ドイツのルターがローマ・カトリック教会に対して起こした宗教改革(1517年以後)も大きな出来事でした。ルターの思想はドイツ諸侯の支持を得て広まっていきます。また、1534年にはイギリスが国教会を設立。このような新たなキリスト教の動きは、それぞれ独自の教会音楽をもたらしました(ルター派のコラール、英国国教会のアンセムやサーヴィスなど)。一方、こうしたことを受けてカトリック教会もトレントの宗教会議(1545年~1563年)を開催して典礼や宗教音楽の見直しを図りました。
その他、ルネサンス期の重要な事柄として、絵画における遠近法の確立、金融などの経済発展、航海技術の発展に伴う海外貿易、コロンブスによるアメリカ大陸の発見(1492年)などを挙げることができます。
デュファイの時代以降もフランドル楽派の音楽家たちが欧州各地で活躍し、様々な土地の音楽家に多大な影響を与えました。重要な音楽家にデュファイの弟子と言われるオケゲム、その弟子のジョスカン・デ・プレ。オブレヒトやイザーク、オルランド・ラッソ、デ・モンテらがいますが、彼らがいつどこで生まれ、どのような教育を受けたかなどその経歴に関しては分かっていないことが多いのです。
ここでは盛期ルネサンスのフランドル楽派のオケゲムとジョスカンをご紹介しましょう。
ヨハネス・オケゲム(生年不詳~1495年)はフランドル地方のある町で生まれ、バンショワやデュファイの弟子だったという説があります。ブルボン公シャルル1世の宮廷音楽家を務めたのちに40年もの長きに渡ってフランス王家の宮廷礼拝堂のメンバーを務めました。オケゲムは宗教音楽をたくさん作曲しました。ラテン語のテキストを持つ循環ミサ曲やモテット、レクイエムなどです。また、全部で36の声部からなるカノンで出来た《デオ・グラツィアス》というモテットもありますが、作者の信憑性は定かではありません。その音楽の特徴として非常に低い音域や息の長い旋律線が挙げられます。