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2.モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart / 1756-1791)の時代

モーツァルトは古典派中期の大作曲家です。

古典派の中期から興隆期を日本の歴史に例えると、徳川幕府の中後期の名老中の一人=松平定信(1759-1829)の生きた時代にオーバーラップします。モーツァルトの生きた時代は、神聖ローマ帝国の最末期にあたりますし、またイギリスで起こった第1次産業革命の時期にもピタリと重なっています。

ドイツ・オーストリア圏は、最末期とは言えまだ神聖ローマ帝国の支配下でしたから、基本的には封建社会が続いていたので、音楽家の生活は今日の自由な社会から見れば窮屈なものだったかもしれません。

その中で、アマデウス・モーツァルトの父=レオポルドは、息子の天性の素質と才能を見抜き、雇い主のザルツブルグ大司教から相当に無理をして許諾を得て、伝統的にヨーロッパ文化のトップモード発進地であったイタリアへの演奏旅行を何度も敢行したのでした。

そのような環境の下で天性を開花させていったアマデウスは、遂に1781年には雇い主であるザルツブルグ大司教と決別して、ウィーンにフリーの音楽家として定住するに至ったのです。これは当時としては破天荒以外の何物でもない思いきった行動で、フランス革命以後の芸術家の在り方を先取りしていたのです。

しかし結局、晩年(といっても30歳台半ばですが)には困窮を極める生活に陥り、遂に病に倒れてこの世を去ったのでした。

ここで、モーツァルトの作品のひとつの、[交響曲第41番ハ長調「ジュピター」/K.551]に注目してみましょう。

できれば全曲を聴いてみてください。

♪データ2:交響曲第41番ハ長調「ジュピター」/K.551♪

作曲年代:1788年頃

楽器編成:フルート1,オーボエ2、ファゴット2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,弦5部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)

演奏時間:(楽譜通りの繰り返しを遂行した演奏の場合) Ⅰ楽章=約11分 Ⅱ楽章=約8.5分 Ⅲ楽章=約5分 Ⅳ楽章=約11.5分 計=約35分

Ⅰ楽章冒頭(YouTube) 【譜例3】を見てみましょう。

【譜例3】

バッハの楽譜(【譜例1】や【譜例2】)に比べて、横の線の絡みというよりも縦の線の明確さ、つまり和音(和声)を優先させているように感じられませんか。

実は、バロック時代から古典派への転換は、ポリフォニー様式からホモフォニー自由和声様式への転換期でもあったのです。

古典派の時代は、ヨーロッパの主要な都市でオーケストラという大規模な演奏媒体の組織が活発になった時期でもあります。中産階級が次第に力をつけて、我が街のオーケストラが誕生する時代になってきたのです。

そのオーケストラのレパートリーとして、交響曲が盛んに作曲されるようになったのです。楽器編成もバッハの協奏曲よりはかなり大きくなり、モーツァルトやほぼ同時代を生きた(“交響曲の父と”呼ばれる)ハイドンの晩年の代表的な交響曲群は、30〜50人程度で演奏される場合が多かったと考えられます。

演奏時間も次第に長くなって、両作曲家の初期の交響曲は10分足らずのものもありましたが、前述の「ジュピター」のような晩年の代表作では、30分程度の規模に達したのでした。

それにしても、「ジュピター」を聴いていると、胸が熱くなってきます。特にⅣ楽章を聴き進めていく時、バッハのポリフォニー様式の深淵と交響曲という新しい楽曲様式の融合を試みた晩年の崇高な想いがひしひしと伝わってきて、目頭まで熱くなってきます。

「モーツァルトがもっと長生きできてフランス革命を跨いで更に新しい時代の息吹に触れることができたならば、どんな境地に辿り着いたのか」と、考えずにはいられません。