作曲家は和音やその中に含まれる音を使って人の感情を表したり、それをうまくコントロールしたりするのでしょうか。
R.シューマンの献呈(「ミルテの花」より)という歌曲の前半を見ながら考えてみましょう。
シューマンは自分が愛する妻と結婚をする頃にこの歌を作曲しています。
実はこの時期、シューマンは自分の妻のためにものすごい量の歌曲を、それもわずか1年あまりの期間に書いているのだそうです。
愛するひとのための愛の歌。
この献呈(ささげるという意味ですね)はまさに典型的な愛の歌で、ミルテの花という歌曲集の第1曲めにあたります。
ミルテの花は花嫁が飾りに使うもの。
奥様へのプレゼントとしてふさわしい訳ですよね。
曲は3拍子、生き生きとした速いテンポで始まります。
あれ、ちょっと待ってください。
3拍子ですよね、2分の3拍子。
でもそうすると、詩の持っている動きとうまく合わないと思いませんか。
ドゥー マイネ ズィーレ、 ドゥー マイン ヘルツッ
ドゥー マイネ ヴォン、オー ドゥー マイン シュメルツッ
さあ、恒例となってきました乱暴な実験。
この詩の言葉の動きに合わせて2拍子で歌を作ってみます。
出来不出来はともあれ、これをシューマンの歌と比べ、次のような推理をしてみます。
・シューマンの歌を見る限り、奥様に対する愛情は山田の曲に比べてはるかに大きい。
・シューマンの歌では、歌手は興奮して相手に対する愛情を歌う。だから詩の言葉の動きと音楽の拍子がズレる。なぜなら興奮しているから。
この推理を裏付ける証拠のようなものがあります。
それは前奏。この前奏について特徴を幾つか挙げてみます。
・1小節の前奏である(1小節しかない)。 |
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・最初の動きに忙しそうなリズムがある。(右の楽譜を参照) |
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・4分音符5つ分のトニックと4分音符1つ分のドミナント(トニックがドミナントに比べて異常に長く響く)。 |
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・3拍めに向かってクレッシェンドする(これは歌が始まってもずっと続けられる)。 |
以上のように、とにかく忙しいのです。
特に(1)で挙げたように、前奏は1小節しかありません。