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和音による感情のコントロール

では、もしもこんな前奏が2小節あったらどうでしょう。

なんだか少し歌いやすく、聞いていて安心感があります。

シューマンはこれを嫌いました。

愛する君の事をほめる。

「あなたはすばらしい」

この気持ちを決して落ち着かないで息せき切って興奮気味に歌うのです。

ここで新たな疑問が生じます。

詩では愛する人をいろいろなものに喩えています。

君はぼくの魂だ、ぼくの心だ、ぼくの喜びだ、そしてぼくの苦痛だ・・・

えっ? 苦痛? ほめてるんじゃなかったでしたっけ。

イタイとかクルシイとかってほめてる事なんですか?次はどうでしょう。

君はぼくが生きる世界だ、ぼくがはばたく空だ、ああ君はぼくのお墓だ・・・

ええっ??人をほめる時そんな事言いますか?

でも、この講座を受講してこれを読んでいる皆さんは、きっと経験があるでしょう。

「恋って、けっこう苦しいもんなんだヨ」という思い。

好きな人がいると楽しい、でもその反面つらい―—なんて思い、皆さんよくご存じかもしれませんね。

さあ、話がおもしろくなってきましたよ。

歌の冒頭で相手の事を魂と言って心だと言う。

「魂」は踊るように頭の上にとび上がって、「心」はしっかりと落ち着いて静まる。

そんなふうにシューマンは考えて、最初の歌のフレーズを作ったと推測できます。

ここで使われている和音(和声)は、

どちらの言葉に対してもトニックであるIの和音です(A♭、C、E♭)。

そして次の言葉は「喜び」と「苦痛」。

喜びは今までで最も高い音・・・これは当然ですよね。

使われている和音はD♭、F、A♭という明るい響き。

そして苦痛の方はD♭、F♭、A♭、B♭という少し暗くて複雑な響き。

この明暗分かれた響きと響きをわざとつなぐかのように歌のメロディーはなだらかにおりてきます。

まるで、愛の喜びと苦しみは表と裏。つながってるんだよ、とシューマンは言っているみたいです。