シューベルトは、古典派からロマン派への移行期を生きた作曲家です。日本の歴史に例えると、滝沢馬琴(曲亭馬琴:[南総里見八犬伝] 等の戯曲作家として有名)や葛飾北斎(画家・浮世絵師として世界的に有名)が活躍した時代、江戸時代の第11第将軍=徳川家斉(1773-1841)の時代にあたります。
つまり第1回で取り上げたベートーヴェンの後半生にオーバーラップします。前回でも言及しましたが、フランス革命(1789-1799)を跨いでいる時期ということがとても重要です。この革命によって、ヨーロッパの神聖ローマ帝国の時代は幕を閉じ、市民が社会の主人公になる今日的な近代社会の幕開けとなったのです。
封建社会の中では、教会や王侯貴族の依頼を受けてせっせと曲を書く一介の職人という立場にあった作曲家が、フランス革命以降の社会においては、自分の作品を世に問う一個の芸術家としての性格を強めていくのです。
佐藤昌弘先生の執筆による<第12回「マーラーの交響曲を聴いてみよう!」〜9のジンクスをめぐって>の1頁目の言葉を借りて、交響曲の作曲について述べるならば、「ある程度パターンにそって作曲された」時代から「たくさんのエネルギーと時間をかけて作り上げた“問題作”にしようとした」時代に移行していったのです。
ここで、シューベルトの作品のひとつの[ 交響曲第7番ロ短調/D759「未完成」]に注目してみましょう。
できれば全曲を聴いてみてください。
作曲年代:1822年頃(但し初演は遅れて1865年)
楽器編成:
フルート2,オーボエ2、クラリネット2,ファゴット2
ホルン2,トランペット2,トロンボーン3, ティンパニ,
弦5部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)
演奏時間:
(楽譜通りの繰り返しを遂行した演奏の場合)Ⅰ楽章=約15,5分 Ⅱ楽章=約13分 計=約29分
【譜例9】YouTubeで視聴
この作品は、本来は四楽章構成であるはずの交響曲なのに2楽章までしか書かれなかったことによって、「未完成」と呼ばれていることでも有名です。その経緯についてはここでは触れませんが、作品自体が持つ怪しげなまでにロマンティックな音楽そのものにこそ、最も注目するべきでしょう。“夭折した作曲家が晩年にロマン派の時代の息吹に触発されて突然変異的に創出された孤高の傑作と言えるでしょう。
Ⅰ楽章の冒頭【譜例9】のコントラバスの旋律が全曲を統一する役割を担っています。管弦楽の規模は、今日的な“二管編成オーケストラ”(2 2 2 2 / 4 2 2(3) / 打 / 弦5部)までもう一息というところまできています。