19世紀後半になると、ドイツ、フランス、イタリアといったクラシック音楽の発展の舞台であったヨーロッパ中心部だけではなく、周辺の国々や地域からも著名な作曲家が現れるようになりました。ボヘミア(チェコ)のスメタナ(Bedrich Smetana / 1824-1884)やノルウェーのグリーグ(Edvard Hagerup Grieg / 1843-1907)等の名前が挙げられますが、本稿ではロシアのチャイコフスキーとボヘミア(チェコ)のドヴォルザーク(ドヴォジャーク)を代表的な存在として取り上げておきましょう。
チャイコフスキーが生きた時代のロシアは、ロマノフ王朝の末期にあたります。農奴解放政策や国王暗殺後とその後の反動的政策等で内政が混乱してはいましたが、軍事力を着々と増強して国力を増していった時期に重なります。シベリア鉄道の建設も開始したロシアの極東における南下政策は、日本にも脅威を与えるようになっていきました。チャイコフスキーの死の翌年には、後の日露戦争の遠因にもなった日清戦争が勃発しています。
その日清戦争や日露戦争の前夜と言える時代に書かれた名曲、[交響曲第5番ハ短調 作品64]を聴いてみましょう。
作曲年代:1888年
楽器編成:フルート2(Ⅳ楽章で+ピッコロ),オーボエ2、クラリネット2,
ファゴット2(Ⅳ楽章で+コントラファゴット),
ホルン4,トランペット2,トロンボーン3, テューバ1,ティンパニ、打楽器、
弦5部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)
演奏時間:
Ⅰ楽章=約15分 Ⅱ楽章=約13,5分 Ⅲ楽章=約6分 Ⅳ楽章=約12分
計=約47分
【譜例13】YouTubeで視聴
ロシア的な旋律の魅力に溢れた雄大な交響曲です。大らかな魅力という点において、ロマン派前期からの飛躍は明らかです。終楽章の序奏が終わってソナタ形式に入った所の楽譜【譜例13】を見てもわかるように、低音を充実させるためにテューバが加えられた楽器編成になっています。徐々に楽器編成が拡大していっている様子を見出すことができます。