この曲には2つのカノンがあるわけですが、c moll で始まる最初のカノンの後、11小節から下声部が g moll でのカノンの先行句へと引き続いています。
けれども、調性の構造からとらえると、第2部が13小節目から始まります。
図にしてみるとこんな風です。
下の図2ように、最初のカノンを終了させ、新しい調とともに次のカノンへ…という並列した状態ではありません。
この曲は図1のように、g moll のカノンの先行句を前の段落にくい込ませて、区切りの場所とわざとずらしています。
瓦ぶきの屋根を見ると、魚のうろこのように境目がわからないようになっていますよね。
それと同じように段落の区切りをわかりにくくしているのです。
調性的、旋律的に感じとる区切り、言い換えるといったん終わって息つぎをして、また新しく始めようと思う箇所、ここではすでに次のカノンの先行句が始まっているのです。
しかも page 3 でみたように、先行句の最初の2つの音は g moll をあからさまには感じさせないようになっています。
知らないうちに速やかに次の話は始まっている…バッハの巧みな技です。