g moll でのカノンの先行句の最初の音 mi♭→fa について、もう少し見てみましょう。
第1部は c moll で始まり、平行調 Es dur を通って属調 g moll へ向かいます。この11小節目はまだ転調の途中で、g moll は確定していません。
こういった理由もあり、sol→fa♯ ではなく mi♭→fa となっています。
けれど、この2つの音が mi♭→fa になっていることで、この拍は長七の和音が聴こえることになります。(譜例□)
10小節目までの明確な進み方が、この響きによってすこし揺らされたように感じませんか?
早く次のカノンの先行句を登場させたい、けれど転調しなくてはいけないという状況を、こんな微妙な音づかいでかわし、しかもニュアンスをだしている…さすがです。